約 2,414,433 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1060.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、万全を期していた。 トリステイン魔法学院で二年生に進級する時に行われる『春の使い魔召還の儀』に向けての練習、そしてコンディション。共に完璧。 魔法が使えなくとも、せめて使い魔だけはと言う思考があったのは認めるが、彼女が召還に拘ったのは別の理由がある。 そもそも使い魔とは召喚者。 つまりはメイジのその後の属性を決めるのに重大さを持っている。 確かに、自らのパートナーとしての側面も持ち合わせてはいるが、それは飽くまで二次的なモノ。その証拠に使い魔には代えが利くが、新たに呼び出される者は全て、決定された属性に関係のある生物だからだ。 ルイズは、この属性を決めると言う箇所に望みを掛けていた。 つまり、自らが召還した使い魔の属性を辿れば、自分の魔法の属性を知ることが出来るのでは無いかと。 それ故に、ルイズはこの召喚に失敗する訳にはいかなかった。 「宇宙の果てのどこかを彷徨う私のシモベよ……神聖で美しく、そして強力な使い魔よ、 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに…答えなさいッ!!」 呪文はオリジナルのモノであったが、自分の中にある全ての魔力を注ぎ込んだ呪文は、それに見合っただけの大爆発を起こしてくれたのだった。 「ゲホッ……ゴホッ……」 爆発によって舞い上がった粉塵が、喉に張り付く不快感に咳が出る。 こんなはずじゃない。こんなはずじゃない。 自分は、最高の使い魔を召喚するはずだったのに、なんで爆発が…… 己が『ゼロ』であると再認識させられたルイズは、心の中にあった最後の自尊心すら、自らが放った爆発で粉々に吹き飛ばしてしまい、力なく、その場に座り込んだ。 「あっはっはっ、見ろよ。やっぱり失敗だったんだ」 「所詮、『ゼロ』は『ゼロ』って事よねぇ」 「あ~、これであいつも、ようやく退学になってくれるだなぁ~」 「これで、やっと授業を安全に受けられるよ」 ゲラゲラと耳障りな嘲笑を受けながら、ルイズは空っぽになった心で思っていた。 魔法学校を退学になった自分は、どうなるのだろう。 実家に戻る? あの由緒正しきヴァリエール家に、魔法も使えない自分が? それは我慢ならない。プライドがどうこうでは無い。 そんなものは、先で述べたように砕け散っている。 あるのは、家族に迷惑が掛かるという思いだけだ。 「どうしよう……」 失意の呟きを口に出すが、答えてくれる者はこの場に居ない。 ただ、ゲラゲラと耳障りな笑い声だけが辺りに響く。 何が引き金だったのか、行動を起こしたルイズ自身、分からなかった。 単に堪忍袋の尾が切れただけなのかも知れないし、もしかしたら、ただの気紛れだったのかも知れない。 ともかく、ルイズは思ったのだ。 この喧しい笑い声をしている連中を今すぐ黙らせたいと。 変化は劇的だった。 一際大きな笑い声を上げていた肥え過ぎた生徒の悲鳴が響いたかと思うと、辺りの生徒達もまた、一斉に悲鳴を上げ始めた。 あまりにも煩わしい悲鳴だったので、ルイズはなんとなく顔をそちらへ向けた。 何か、白い何かが生徒の身体を殴りつけている。 その何かは、ルイズがこちらを見ている事に気がついたのか、精肉場に胸を張って持っていける生徒に最後の蹴りを入れ、青草を踏み鳴らしルイズの目の前へと立った。 奇妙な姿だとルイズは思った。 全身が太い白の線と細い黒の線の横縞模様で、その縞模様の間に「G」「△」「C」「T」という形のマークがある。 そして、これが一番の特徴になるのだろうが、頭部に黒いマスクを被っている。 ―――こいつだ 妙な確信がルイズの中で蠢き、契約の呪文を紡がせる。 全ての言葉が自分の口から出終わり、相手の唇に口付けをしようとすると、奇妙な姿の者もルイズが何をしたいのか分かったらしく、膝を折り、中立ちになってルイズの唇を受け入れた。 「あんた……何?」 契約が完了したと同時に、ほぼ無意識の内にルイズの口から言葉が漏れる。 その漏れた言葉に、契約が完了し、左手にルーンを刻まれている奇妙な姿の者は 「ホワイトスネイク―――ソレガ私ノ名ダ」 神託のように深き言葉を紡ぎだした。 「それでコルベール君、被害の方はどの程度に治まったのかのぉ」 厳格な態度と雰囲気を持つ、このトリステイン魔法学校の長であるオールド・オスマンは、冷や汗でただでさえ光を反射する頭皮を、さらに鏡近くまで存在を昇華させている、 コルベールを見ながら厳かに問い質した。 ミス・ロングビルに蹴られながら どうかと思う。 「はい、その、ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔は、召喚されたショックからか、生徒達の中で最も肥満な……失礼、最も体積が大きく目立った、ミスタ・グランドプレを襲って、彼に全治半年の大怪我を負わせました。 幸い、すぐに治療した甲斐もあって、半年が一ヶ月に縮まりましたが、それでも大怪我には変わりありません」 コルベールは必死だった。必死で目の前の光景から目を逸らし続ける。 見たら終わりだ。見たら自分もアレに巻き込まれる。 そんな思いで冷や汗を掻きながらの報告を終えると、丁度良い感じに蹴られ続けたオスマンが立ち上がり、革張りの椅子へ蹴られ続けたお尻を気にしながら座る。 ロングビルも、蹴り飽きたのか自分の仕事へと戻っていた。 「ほ~、中々酷い有様のようじゃったらしいが、ミス・ヴァリエールは『コンタクト・サーヴァント』は済んだのかの?」 「はい。ミスタ・グランドプレを医務室に運んだ後に、私自身が使い魔のルーンを確認しました」 ふむ、とオスマンは一度頷き窓の外へと視線を向ける。 窓の外では、黒い髪のメイドと料理長が雇ってくれと頼み込んできた黒髪の少年が洗濯物を干し、太陽の光を体一杯に浴びていた。 そんな如何にも平和な光景を目にしながら口を開く。 「契約が完了したのならばそれで良い。ミスタ・グランドプレには災難だが、召喚の際の事故は誰にでもある。 このわしでさえ、召喚したての使い魔には色々と苦渋を舐めさせられたものじゃ」 そういって、顔を顰めるオスマンにコルベールは、確かにと同意を口にする。 オスマンの使い魔をコルベールは見た事は無かったが、彼ほどのメイジならばドラゴン並みの魔獣の類を召喚したのだろう。 「では、ミス・ヴァリエールにはお咎め無しと言うことで?」 「うむ」 重厚なオスマンの頷きにコルベールは先程の光景をすっかりと忘れ、では、自分は仕事に戻りますと部屋を出て行った。 オスマンとロングビル。 二人きりになった部屋で、ロングビルが思い出したように呟く。 「先程……」 「んっ?」 何かな、と疑問な顔でロングビルのお尻を撫で回そうと手を伸ばすオスマン。 「召喚したての頃は色々と苦渋を舐めさせられたと言っておりましたが、それは今も変わっていないのでは?」 静かに返答をしながら、伸びてきた腕を思いっきり抓るロングビル。 「何を言っておる」 痛みの所為か涙目になっているオスマンが言葉を返すと、机の一番上の引き出しを開けた。 そこには、彼が楽しみにしていた菓子折りが入ってるはずであったが、 開けた瞬間、彼の目に飛び込んできたのか、白いハツカネズミ。 「なっ、モートソグニル……お主……わしが楽しみにしていた、ゲルマニア産の菓子折りを……」 オスマンは苦渋を舐めたような渋面で、菓子折りの中身をボリボリと食べる使い魔のネズミを見つめるしかなかった。 「う~~~ん」 部屋に戻ってきたルイズは唸っていた。 拙い……拙すぎる。 何が拙いと言うと、先程の自分の醜態である。 召喚の際、爆発が起こり失敗したと思った自分は、一瞬、何もかもが馬鹿らしくなり、全てを投げてしまった。 今になって冷静に考えてみると、一回の失敗であんな風に落ち込むなど自分らしくなく、明らかに普段思い描いている貴族像からも逸脱していた。 さらに痛恨なのが、その落ち込んでいた場面を、あのキュルケに見られてしまった所だ。 (あ~、明日は絶対に弄られるじゃないっ!) キュルケがその豊満な肉体を見せつけながら、自分に対してからかってくる様を想像して、それがあんまりにもリアルだったので、ルイズの唸り声は、一段高くなった。 (それにしても……) とりあえず、キュルケの問題は棚上げにし、ルイズは自分の使い魔となった亜人と思われる生き物を見上げた。 自分のすぐ傍に立っているその亜人は、ホワイトスネイクと名乗り、召喚してからすぐ、マリコルヌを精肉屋に持っていける程にしてしまった。 その様を見たルイズは、胸がスッとしたが、とりあえずあの時は自分の召喚が 成功していたと言う事実の方が頭に浮かび、あまり記憶が残っていない。 それでも、ファーストキスでもある『コンタクト・サーヴァント』をした事は、確りと憶えている。 (あっ、そうか、よくよく考えると、私ってこいつとキスしたんだ……) 人間、何事でも始めての相手には情が移る者である。 ルイズもまさにそのとおり――――――ではなかった。 (こんな……こんな奴が、私のファーストキスだなんて、ぜっっっっっったい、認めないわっ!!) 流石に言葉には出さなかったが、頭を抱えて、う~う~と唸るその様は、傍から見ると不気味以外の何者でもない。 その唸っている自分の本体を余所にホワイトスネイクは、ただ部屋の入り口に立っていた。 ホワイトスネイクは、自分の存在について考えていた。 天国へと行く為の方法によって、ホワイトスネイクと言う存在は、さらなる高みの存在へと昇華し、記憶をDISCとする能力を持った自分は、確かに別の存在になったはずであった。 それが、今はどうだろうか? さらなる高みの存在―――『メイド・イン・ヘヴン』の時の記憶もあれば、世界が『一巡』した新世界における記憶すら今のホワイトスネイクは持っている。 (ドウイウコトナノダ、コレハ……) 自分が、まったく別の存在になった時の記憶も持っている事に、本来ならそのようなモノとは無縁であるはずのホワイトスネイクに、言い知れぬ『不安』と言うものを感じさせていた。 ……感じさせていたが、すぐにその『不安』をホワイトスネイクは忘れた。 『不安』に思う過去など自分には必要無い。何故なら自分はスタンドだ。 自分に必要なものは、本体に絶対服従の忠誠心と能力だけである。 他の事柄など、思考を割くのも無駄である。 そうして、ホワイトスネイクは、自身が何故、存在しているかと言う疑問と、自分と言う存在でない者の記憶が何故あるのかと言う、二つの疑問を無意識のさらに底まで封印した。 これで良い。これで自分は『不安』を持つことは無い。 次にホワイトスネイクは、左手の奇妙な痣の事を考え始めた。 ホワイトスネイクを現す四つのマークではなく、明らかにそれとは違う形をしているこの奇妙な痣。 解析する為に、DISCとして形にしてみると、面白いことが分かってきた。 どうやら、この奇妙な痣は使い魔のルーンと言うらしく、武器を持つことによって自分の上がるものらしい。 さらに言えば、性能を上げるだけでなく、その武器の使い方を瞬時に理解することさえ可能と言う、まさに『兵士』の為のルーン。 (ダガ……私ニハ、不要ノ長物ダナ) ホワイトスネイクの戦闘方法は、まず、敵に触れることにある。 記憶をDISCと出来る自分にとって、相手に触れると言う事は、すでに相手の命を手にしていると同意義なのだ。 その敵に触れる攻撃が一番しやすいのが、徒手空拳。 つまり、素手による殴打である。 確かに、性能の補正は魅力的だが、補正の条件が感情を高ぶらせる事であり、スタンドで、尚且つ冷静と言うよりは、無感動に近い自分には大した補正は乗らないだろう。 以上の事等から、武器などを使うと、逆に自分の戦闘能力は下がってしまうと、ホワイトスネイクは考えた。 そして、最後の問題である現在の自分の本体をホワイトスネイクは見た。 桃色の髪をした幼い少女。 高慢であり自尊心だけが無駄に肥えたこの少女が自分の本体であることに、ホワイトスネイクは特に何の感慨も抱かなかった。 ただ、前の本体のような性能を自分は発揮できないであろうな、と思っていた。 スタンドとは、もう一人の自分である。 肉体的な自分が本体とするのならば、精神的な自分であるスタンドの強さは、本体の精神の強さに依存する。 その点で言うならば、ルイズの精神は、元の本体のような、『絶対の意思』を持っておらず、ただ只管に脆弱であるだけ。 弱くなるのも当然であった。 「ねぇ、ちょっと、あんた」 自分の使い魔に、精神的に弱い奴と思われていることを知らずに、ルイズはホワイトスネイクを呼ぶ。 ようやく、あのキスは契約の為に仕方なくしたものであり、ノーカンであると言う結論に至ったので、ホワイトスネイクに使い魔として役割を言い聞かせることにしたのだ。 「召喚されたばっかのあんたに、使い魔の役割を説明してあげるから、ありがたく思いなさいよ 良い、まず、第一に使い魔は主人と目となり、耳となる能力が与えられるわ」 そこまで言ってから言葉を区切る。理由は些細な好奇心。 ホワイトスネイクの見ている世界は、どんなものなのだろうと思い、意識を集中してみるが……見えない。 「ちょっと! どういうことよ!」 詐欺られた気分だ。本来なら、簡単に使えるはずの使い魔との視聴覚の共有が出来ないなんて。 心の奥底には、自分が『ゼロ』だから出来ないのでは? と言う考えも浮かんでいたが、それは認める事の出来ない原因だ。 なので、使い魔の所為にすると言う暴挙に出たのだが、ホワイトスネイクは冷淡な目で自分を見るだけ。 ルイズはもしかして、こいつも自分の事を見下しているじゃないのかと、段々と疑心暗鬼の思いで心が侵食されるのを感じていたが、その冷淡な目付きのまま、使い魔が口を開く。 「ソンナ『認識』デハ、出来ルコトモ出来ナイ。モット、強ク『認識』スル事ダ。 空気ヲ吸ッテ吐クコトノヨウニ、HPノ鉛筆ヲヘシ折ル事ト同ジヨウニ、自分ナラ、出来テ当然ノコトト思ウノダ」 「わっ、わかってるわよ!」 ホワイトスネイクの説教染みた言葉に、プッツンしそうになるが、なんとか堪えて意識をまた集中させる。 ―――集中 ――――――集中 ―――――――――集中 ――――――――――――っ! 一瞬、ほんの一瞬だが、自分の姿が視えた。 自分より背の高い者から見た、見下ろされた自分の姿。 それが、ホワイトスネイクの見ている風景だと気付いた時、喜びと……怒りが同時に込み上げてきた。 「なんで一瞬なのよっ!」 そう、何故だか一瞬で消えた映像にルイズは怒りを爆発させていた。 もっと、持続できなければ視界を共有しているとは、まったくもって言えない。 「マダ、『認識』ガ足リナイラシイ。モット、時間ヲ掛ケテ、私ヲ、自分デアルト『認識』スレバ、自然ト見エテクル」 悔しいが、使い魔の言う通りだろう。もっと、もっと、時間を掛けなければ、自分は使い魔の視聴覚を感じられない。 しかし、逆に考えて見れば、時間さえ掛ければ自分は使い魔の目と耳を感じられると言う事だ。他のメイジのように。 「まったく、今、出来ないんじゃ意味無いわよ。次よ、次」 さも不機嫌な感じで言葉を口にするが、内心は自分も、ようやくメイジらしいことが出来るようになるかも知れないと、今すぐにも踊りだしそうであった。 「次は、そう、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、秘薬とかね…… と言うか、あんた亜人だけど、秘薬って分かるの?」 秘薬を見つけるのは、主に動物系の使い魔の仕事だ。 見るからに亜人なこいつでは、見つけるのは無理かなと、聞いてみると、予想通りに首を横に振ってきた。 「まぁいいわ。秘薬なんて、どうせ買えば済む話だし…… それより、これが使い魔の役割で一番大切な事なんだけど、使い魔は主人を守る存在なのよ」 マリコルヌをフルボッコにしたホワイトスネイクをルイズは見ていたが、それで満足する程、ルイズの使い魔に対する注文は低くない。 自分の使い魔であるならば、最強、最優。 そうでなければ、自分の使い魔として意味が無い。 「私を守る為の存在のあんたは、強いの?」 「世界ヲ操ル男ガ、私ノ元本体ニ言ッタ言葉ガアル。 ドンナ者ダロウト、人ニハソレゾレノ個性ニアッタ適材適所ガアル。 王ニハ王ノ…… 料理人ニハ料理人ノ……ナ」 「何が言いたいのよ」 「『強イ』『弱イ』ト言ウ概念ハ、ソレ単体デハ存在シナイ。 ソレガ存在スルノハ、比較スル対象ガ居ル場合ニ限ル。 ダガ、私達ニハ、比較スルベキモノガ存在シナイ。 一人、一人、役割ガマッタク違ウノダカラナ」 確かに同じ役割の中でなら強さを測ることは出来る。 しかし、僅かにでも役割が違う者同士で強さを測ることなど不可能なのだ。 スタンドもそれと同じ。 スタンドの能力は、特別な場合を除き、被る事などありえない。 それ故に役割は決して被らず、その為比較すべき対象が存在しないので『強さ』や『弱さ』も存在しないと言いたかったのだが、 ルイズはその真意を汲み取る事など出来ず、訝しげな顔で饒舌な使い魔を見ている。 「そんな小難しいことを聞いてるんじゃなくて、私はあんたがどのくらい強いかを聞いてるのよ!!」 これにはホワイトスネイクも参る。 仕方なく、子供が遊びで話すスタローンとジャン・クロード・バンダムはどっちが強い? と言うレベルで説明するしかないかと思い、窓の外を飛んでいた梟を窓枠に近づいてきた瞬間、恐るべき速さで梟に反応される前に体をがっしりと掴んだ。 「あんた……」 その早業にルイズは驚きで声を上げそうになったが、使い魔の手前、外見上は眉を動かすだけだ。 こいつ……とてつもなく、早い。 これは期待できるかも、と内心の期待からホワイトスネイクを見つめていると――― ―――ぞぶり、と生理的嫌悪の走る、おぞましい音がルイズの耳に届いた。 なるほど、梟の頭に自分の指を突き刺したのか。 いきなりの使い魔の凶行に、ルイズは完全に思考停止し、その様を見つめていたが、きっかり三秒後には再起動を果たす。 「あっ、あんた、何してのよー!!」 寮の窓近くを飛んでいた事から、誰かの使い魔と思われる梟を、自分の使い魔が、何を思ったのか、頭に指を突っ込んで殺してしまった。 そのあまりのショッキングな内容に金切り声をあげるが、ホワイトスネイクは 「―――出来タ」 と謎の言葉を発し、指を刺した時から動かない梟を、 興味を失った玩具を捨てる子供のように、ポイッと気持ちの良いぐらい、あっさりと窓の外に捨てた。 「なっ!」 その行動に驚きの声をあげるルイズであったが、次の光景を目にした瞬間、自分は現実にいるのか心配になってしまった。 頭に指を刺され、死んだはずの梟が、また窓の外を飛んでいるのだ。 「嘘っ……なんで」 死んでなかった? いや、指を刺されてからぴくりとも動かなかったのに……そんなはずは…… 混乱しているルイズを尻目にホワイトスネイクが、片手を窓の外に振ると、梟がそれに気付き、窓枠に留まる。 ホーホー、と良く響く声で一頻り鳴いた後、梟の頭から何かが出てきた。 ピザをもっと平べったくしたような形をした何かが、からんと音を立てて床に落ち、それにあわせ、梟も先程のようにぴくりとも動かなくなる。 ゆっくりとした動作で梟から落ちた円形の何かを拾う自分の使い魔に、ルイズは知らず、ジリジリと後退していた。 それは恐怖か? それとも、驚きからか? どちらにしても、今のルイズには関係無い。 空気を求める金魚のように、彼女はパクパクと口を開けて、ホワイトスネイクを見ることしかできない。 ホワイトスネイクは、そんな自分の本体に見向きもせずに、手の中で梟から抽出した何かを弄んでいる。 「コレハDISCト呼バレルモノダ」 感情の色がまったく込められていないはずのホワイトスネイクの声が何処となく得意げに聞こえるのは、その力が彼の存在理由だからだろうか。 「私ノ能力ハ、生物ノ『記憶』ヲDISCトシテ抜キトル事ガ出来ル」 記憶を抜き取る。 今、自分の目の前にいる使い魔は確かにそう言った。 「……本当に?」 そんなことが出来るのか? いいや、できるはずが無いと否定の考えが頭に浮かぶが、部屋の床に転がった梟の虚ろな瞳を見て、もしや……と疑問が鎌首を擡げる。 もし、仮にこの使い魔の言う事が全て真実であるとするならば、自分はなんてものを召喚してしまったのだろうか。 記憶を抜き取る自分の使い魔の力に、ルイズの身体は震えていた。 それは、恐るべきものを召喚してしまった恐怖か――― それとも、そのような強力な力を持つ者を召喚してしまった喜びか――― ――――――自分の身体だと言うのにルイズ自身、どちらなのか分からなかった。 『風上』のマリコルヌ……全身を乱打され、重症。 クヴァーシル……『記憶』DISCを抜かれ、生きる目的を失い、再起不能 戻る 第二話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2466.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズは久しぶりに上機嫌だった。 何かが良くなったわけでもない。午前中もやっぱり魔法は失敗してしまった。 それでもルイズの心は軽かった。 ここ最近ずっと味気なかった食事も、今はなんだかとても美味しく感じる。 康一が教室で言ってくれた言葉を思い出した。 そうだわ。わたし、まだ17なんだもの!これからどんなことがあるか分からない。 まだ自分の『運命』に絶望するのは早すぎる! 使い魔だって、最初はみんなと違ってたからがっかりしたけど、よく考えたら人間なんだから、猫や鳥を召還するよりずっと上等だわ。 ルイズは食事を終え、ナプキンで口元を拭いた。 午後は自習らしい。せっかくだから魔法の練習をしよう! そこに数人の男子が通りがかった。 そのうちの一人が、ポケットから小瓶を落としたので、ルイズは声をかけた。 「ちょっと。何か落としたわよ。」 ん?と振り向いた顔を見て、ルイズはゲッという顔をした。 ギーシュ・ド・グラモン。さっき教室でわたしに嫌味を言った、キザで嫌なやつ! 「なんだいルイズ。もう片付けは終わったのかい?」 ギーシュがいかにも嫌味な口調で言った。 ルイズは思わず怒鳴りそうになったが、我慢することにした。 確かに、自分の失敗のせいで彼にも迷惑をかけた。だからぐっと堪える。 「ええ。ミスタ・コルベールにもういいって言われたの。それより、その小瓶。あんたが落としたんでしょ?」 と、床に落ちている紫色の小瓶を指差した。 今度はギーシュのほうが、ゲェ~!!という顔をした。だが、瞬時に表情を取り繕うと、 「し、知らないね。それはぼくのものじゃないよ。適当なことを言わないでくれたまえ。」 と背を向けようとする。 「嘘!あんたのポケットから落ちたの見たんだから!いいから持っていきなさいよ!」 別にギーシュのことなんかどうでもよかったが、適当よばわりされたのは我慢ならなかった。 すると、ギーシュと一緒にいた友人達が、「おおっ!」と騒ぎ始めた。 「おい、ギーシュ!それってもしかしてモンモランシーの香水じゃあないのか!?」 「そうだ!この鮮やかな紫色の小瓶・・・間違いない!モンモランシーのだ!ギーシュ・・・お前モンモランシーと付き合ってるのか?そうだろ!」 「あ、あんまり騒ぐんじゃない!いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」 ギーシュが否定しようとしたとき、ルイズの後にあるテーブルから、一人の女の子が立ち上がった。茶色のマントだから一年生だろう。 その栗色の髪をした可愛い少女は、涙ぐんだ目でギーシュを見つめた。 「ギーシュ様・・・やはりミス・モンモランシーと付き合っておられたのですね・・・」 ぼろぼろと涙がこぼれる。 ギーシュは慌てて女の子の肩を抱いた。 「い、いやだな。ケティ。そんなつまらない勘違いで美しい顔を涙に濡らさないでおくれ。ぼくはいつだって君一筋なんだから・・・」 「へぇ~~~?君一筋・・・ねぇ。」 ギーシュはぎくりと固まった。ゆっくりと声をしたほうに顔を向けると、きれいな金髪の巻き髪をした女の子が立っていた。 「ギーシュ。あなた、やっぱり一年生の子に手を出していたんだ・・・」 ギーシュはケティの肩を抱いていた手をぱっと離した。 「ちち違うんだモンモランシー!彼女とはラ・ロシェールの森まで遠乗りをしただけで・・・。ああっ!その薔薇のように麗しい顔を怒りにゆがめないでおく・・・!」 その瞬間、バッチコーーン!と食堂中に響くいい音をさせて、ケティのビンタが飛んだ。 「ギーシュ様!最低です!」 そして泣きながら走り去っていった。 「ああっ!ケティ!」 思わず手を伸ばしたギーシュに、背後からドバドバとワインが振りかけられた。 ギーシュがゆっくりと振り向くと、モンモランシーはワインの空き瓶を床に投げ捨てたところだった。 「二度と私に近づかないで。」 凍りつくような声色でそれだけ言うと、つかつかと歩き去っていく。 要するに二股をかけていたらしい。ルイズは馬鹿なやつ。とつぶやいて立ち上がった。 ワインまみれで立ちすくむギーシュの横をすり抜けて出口へ向かう。 「待ちたまえ・・・!」しかしそこでギーシュがルイズを呼び止めた。 「・・・・なに?」 ルイズが振り向くと、ギーシュはルイズに薔薇の造花をつきつけた。 「君の軽率な行動のおかげで、二人のレディの名誉が傷ついてしまった・・・。どうしてくれるのかね?」 ルイズは薔薇を払いのけた。 「わたしの知ったことじゃあないわ。ギーシュ。二股かけてたあんたが悪いんじゃない。」 まわりの生徒達がやんややんやと騒ぎ立てた。 「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」 ギーシュの顔に赤みがさした。 「ぼくは君が呼び止めたときに、知らないといったはずだ。そこで引き下がっていれば、こんな騒ぎにはならなかった!」 ルイズは呆れた。心の底から呆れた。こんなやつが貴族を名乗っていいのだろうか。 だから馬鹿にした口調で斬って捨てた。 「あんたが二股をかけるのが悪いんでしょ。『青銅』・・・いや、『二股』のギーシュ?」 集まってきた人垣がどっと笑う。 ギーシュは思わず頭に血が上りそうになったが、それを堪えた。 相手は『ゼロ』のルイズだ。この僕が何をむきになることがある。 ギーシュはやれやれ、と溜息をついて見せた。 「まぁ、君のような似非貴族に、マナーを期待するのが間違いだったか。いいさ、行くがいい。『ゼロ』のルイズ。」 似非貴族!これ以上ルイズの心に突き刺さる言葉は他になかった。 「・・・ヴァリエール家を馬鹿にするならタダじゃおかないわよ、ギーシュ。」 ルイズが声の震えを押さえつけるようにして言うと、ギーシュはふふん、と笑った。 「僕はヴァリエール家を馬鹿にしてなんかいないさ。ヴァリエール家はトリステインでも最も由緒正しき家柄の一つだ!僕はとても尊敬しているよ!」 ただね・・・、ギーシュは口元をゆがめた。 「君は別だ、ルイズ。由緒正しきヴァリエール家に相応しくない落ちこぼれ。未だに魔法の一つも使えない似非貴族とは君のことさ。」 ギーシュはルイズを指差した。ルイズはその指に、自分の心臓を抉られたように思った。怒りと悲しみで言葉が出てこない。 「今日も授業をぶち壊してくれたね。君のような似非貴族がメイジのふりをしているから、僕たちはとても迷惑しているんだ。」 ルイズを助けに入る者はいない。みな、少なからずもルイズに思うところがあったのだ。 ところで・・・。ギーシュは、ルイズの耳元で囁いた。 「君・・・本当にヴァリエール公爵家の子どもなのかい?」 ルイズの頭が真っ白になった。気がついたときにはギーシュに杖を突きつけていた。 「決闘よ!!」 ギーシュは一瞬ぽかん、としたようだったが。やがてぷっと吹き出した。 周り中がどっと笑い出す。 「あはははは!ルイズ!君は自分が何を言っているのか分かっているのかい?君が僕と決闘だって!?」 ギーシュが馬鹿にしたようにいった。ルイズは震える声で答えた。 「そうよ!わたしはあんたに決闘を申し込むわ!」 ギーシュは、笑うのをやめた。でもねぇ・・・ 「この学院では決闘は認められていないんだよね。特に『貴族と貴族の決闘』はね・・・!だから、君がこうお願いするなら受けてもいいよ。」 芝居がかった口調で続けた。 「『今まで貴族のふりをしていてすみませんでした。わたしはしがない平民ですから決闘を受けてください』とね。」 口笛が飛んだ。騒ぎを聞きつけてあつまった人垣から「いいぞー!やれやれー!」と野次が飛ぶ。 くやしい!くやしい!くやしい!くやしい! ルイズは手を裂けんばかりに握り締めた。 どうがんばっても、わたしよりこいつのほうが貴族らしい・・・。そんなことくらい自分が一番分かっている。 貴族にも、平民にもずっと馬鹿にされてきた!誰もはっきりとは言わなかったが、ギーシュが言っているのは、ずっと自分が思ってきたことなんだ。 わたしはギーシュが憎いんじゃない・・・反論できない自分が情けないんだ!! 涙で視界がゆがむ。座り込んでしまいそうだ。 でも、こんなやつの前で泣いたりするもんか!泣くもんか!泣くもんか!泣くもんか! ルイズは必死に唇をかみ締めてギーシュを睨みつけた。 そのとき、高らかに声が響きわたった。 「それなら、ぼくが決闘を申し込むよ!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ざわめく群集をかき分けて、ゆっくりとギーシュの前に立ちふさがったのは、『ゼロの使い魔』と呼ばれた、小さな平民の男の子だった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2471.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、学院の中庭で荒く息をついた。髪も服も、もみくちゃにされてボロボロである。 ちょうど厨房での熱烈すぎる歓迎から逃げてきたところなのだ。 「歓迎されるのはうれしいけど、引け目があるぶん素直に喜べないんだよなぁー」 褒められれば褒められるほどなんだか申し訳なくなってくる。 以前テスト中、はずみで他の人の答案が目に入ってしまったときの気分だ。 いい点数を取って先生や親に褒められたが、嬉しいというよりも後ろめたくなってしまうものだ。 康一はところで・・・と、あたりを見回した。 「ここ・・・どこだ?」 康一のまわりを塔が囲んでいる。 このトリステイン魔法学院は、中央の本島を囲むようにして、火や水などといった名前を冠する塔が立ち並んでいる。 どれもこれも似たような石組みの建物なので、まだここに来てまもない康一は自分がいるのがどこなのかわからなくなってしまった。 「ここは火の塔と風の塔の間にある中庭ですよ。」 康一が振り向くと、メガネをかけた女性がこちらに歩いてくるのが見えた。 妙齢の美女といっていい。緑色のストレートな髪が風になびく。 それにしてもこっちの人の髪の毛はカラフルだよなぁー。と康一は思った。 「えーっと、どなたです?」 「わたくしはオールド・オスマンの秘書をやっています。ロングビルです。あなたをお迎えにきました。」 ミス・ロングビルは「お目覚めになったと聞いたので。」と微笑んだ。 「オスマンさんがぼくに何か用なんですか?」 ひょっとして帰る方法が分かったのだろうか。 「詳しくは直接お話したい、とおおせつかっておりますの。ついてきて頂けますか?」 「いいですよ。」 康一は二つ返事で承諾した。 そもそも、部屋を追い出され、厨房から逃げてきた康一には、行くところがなかった。 「よかったですわ。それではこちらへ。」 ミス・ロングビルは康一を先導して歩き出した。 ミス・ロングビルはノックをしてから扉を開けた。 以前にも来た事がある。学院長室だ。 「失礼しまぁーす。」 ロングビルに続いて康一も中に入った。 康一の中では、学校の職員室に来るときのような感覚である。 「おお、よくきてくれたね。ミスタ・コーイチ!」 奥の大きな机の向こうに座って、書きものをしていたらしいオールド・オスマンが、相好を崩した。 「ギーシュ・ド・グラモンとの一戦。遠巻きながら見させてもらったよ。もう体は大丈夫なのかね?」 実はあのとき、決闘をとめようとした教師達をオスマンは制止し、遠見の水晶球でその様子をすべて見ていたのだ。 当然康一のことを観察するためである。 「お、お陰様で・・・。」 康一は冷や汗を流した。 最初にあったとき、スタンドを見せてはいけないと知らなかった康一は、堂々と目の前でACT3を出してしまっているのだ。 オスマンはロングビルに目配せをした。 ロングビルは一礼して学院長室から出て行く。 二人っきりになったオスマンは、康一に椅子をすすめた。 「まぁかけなさい。いろいろしなければならない話もあるしのぉ。」 薦められるまま、康一はソファーに腰掛けた。 その正面に座った気のいい老人は、第一声でこういった。 「きみの『スタンド』は『マジックアイテム』ではないんじゃのぉ。」 康一はぎくりとした。 火あぶり、という単語が意識を横切る。 「さ、さぁ。どうでしょうね。」 康一はとぼけてみた。 オスマンは目を細めた。 「あの時、『ディテクト・マジック』をかけた生徒は、君が『マジックアイテム』を持っていないといった。しかし、君は以前見たのとは別の、二体の『スタンド』を出した。」 まさか全部見られていた!? 康一は驚愕した。 死角を使い、一瞬の隙を使い。できるだけばれないようにしていたのに! 康一は黙り込んだ。 「わしは、このハルケギニアで人よりも少々長く生きてきた。そのせいか、どうも常識に捕らわれてしまうことがあるようじゃな。」 ほっほっほっほ、とオスマンは笑った。 「どうしたかね?なにやら緊張しているようじゃが・・・」 ひょっとしたら、今すぐ逃げたほうがいいのかもしれない。 今なら目の前に座っているのは老人一人。切り抜けることができるかもしれない。 康一は半分覚悟を決めた。 「・・・この世界では、『系統魔法』以外の異能の力は『先住』と呼ばれているそうですね。」 「ほう。よく知っておるのぉ。」 「・・・ぼくの力が『系統魔法』によるものでないとしたら、どうしますか?」 康一は部屋の窓を確認した。あそこを破って飛び出せないだろうか。 「この部屋の窓は、スクウェアクラスの『固定化』がかけられておる。体当たりしたくらいではやぶれやせんよ。」 康一は身を硬くした。 心を読まれた!?そういう魔法でもあるのだろうか。 オスマンは顔の前で手を組んだ。 「君はどうやら誤解をしているようじゃの。わしが君を『先住』の使い手として王宮に突き出すと思っているのかね。」 康一は何も言えずに押し黙った。 「少しこの老人の話を聞いてもらえるかの?」 オスマンはソファーにもたれかかった。 「我々メイジが『系統魔法』を扱うことで、特別な地位を築いていることは知っておるね?平民やちょっとした魔物など、訓練されたメイジが一人いれば簡単に蹴散らせてしまう。」 「しかし、例外もある。それがエルフじゃ。エルフは始祖ブリミルの時代より聖地をめぐり、戦ってきた相手。そして、我々メイジは、『先住魔法』を使うエルフ達についぞ勝った事がないのじゃよ。」 「だから我々は『先住魔法』を極端に恐れるのじゃ。自分達が知らない力は、『先住』として恐れ、狩り立てる。」 じゃが・・・。オスマンは続けた。 「本来『先住魔法』とは自然界に宿る精霊の力を借りて力を行使するものじゃ。じゃから、別名を『精霊魔法』とも呼ばれておる。」 「ひるがえって君を見るに、君が見せてくれた3体の『スタンド』は、自然界の精霊とは明らかに異なっておる。わしも長く生きるが、そんなものは見たことがないのじゃよ。」 「じゃから興味が沸く。どうじゃね。『スタンド』とはなんなのか、わしに教えてはもらえんじゃろうか。」 話せる所まで構わんぞ?とオスマンはウィンクした。 康一は観念した。 「・・・『スタンド』は、『生命エネルギーが作り出す、パワーあるヴィジョン』と言われています。ぼくは、自分の『分身』って言ったほうがしっくりくるんですけど・・・」 「『分身』かね。」 「ええ、『スタンド』は『スタンド使い』の魂の形や強い思いを反映すると言われてます。ですから、一人一人形状も能力も違うんです。」 「君が『ACT3』と呼んでいたものは、『ものを重くする能力』というわけじゃな?」 「ええ。まぁそういうことです・・・。」 オスマンはこの康一の告白に驚くと同時に少し興奮していた。 「(この歳になってまだ知らぬことがあるとは、この世界も捨てたものではないわい!)」 しかしそれを表情には出さない。 「しかし・・・その『スタンド』とやらはどうやったら手に入るものなのかね?」 「いろいろです。生まれつきもっている人もいますし。ぼくは『矢』に貫かれて『スタンド使い』になりました。」 「『矢』・・・とは、あの弓で飛ばす矢のことかね?」 「はい。ある特殊な矢で刺されると、『スタンド使い』になる可能性があります。」 「可能性・・・ということは、なれないこともあると。」 「はい。相性のようなものがあるようです。」 「『矢』か・・・」 オスマンは何かを考えるようにして顎鬚を撫で付けた。 「何か心当たりでもあるのですか?」 「いや・・・恐らく君がいっているものとは違うじゃろう。じゃが、宝物庫に『弓と矢』がしまってあるのを思い出したのじゃよ。」 「そうですか・・・」 「(まぁここに『あの弓と矢』があるわけがないよなぁー。)」 黙り込んでしまったオスマンに、この際なので康一は疑問をぶつけることにした。 「あの・・・実はぼく、すごく不思議に思うことがあってですね・・・」 「ん?なんじゃね。いってみなさい。」 「本来は、基本的に『スタンド』は『スタンド使い』にしか見えないんです。」 「なん・・・じゃと・・・?」 オスマンは目を見開いた。 「でも、こちらの人はみんな『スタンド』が見えるみたいで・・・。だから最初、みんな『スタンド使い』だと思ったんです。」 「ふーむ・・・」 オスマンは腕組みをした。目を瞑って何かを考えているようだ。 「あのー・・・」 康一は不安になって尋ねた。 「ぼくはこれからどうなるんでしょうか。」 オスマンは目を開けた。 「君さえよければ、ミス・ヴァリエールの使い魔を続けてくれるとうれしいんじゃがの。」 「よかったぁー!」 康一は胸をなでおろした。どうやら大事にはならなさそうだ。 「驚かせてすまなかったの。もう帰ってもいいぞい。」 「あ、はい。それじゃ、ぼくそろそろルイズの部屋に帰りますね。」 康一は立ち上がった。 扉に向かう康一にオスマンは「君の『スタンド』じゃが・・・」と声をかけた。 「はい?」康一が振り向く。 「メイジではない、平民に見せたことはあるかね?」 「? えーっと・・・そういえば、ない・・・のかな・・・?」 「今度ためしに見せてみてはどうかね?ひょっとして何かわかるかもしれん。」 「はぁ・・・わかりました。」 康一は首を傾げながらも頷いた。 康一が出て行った後、オールド・オスマンは本棚から一冊の分厚い本を取り出した。 ぱらぱらとページをめくり、とある章で目を留める。 「・・・『ガンダールヴ』・・・か・・・」 その本を机の上に置く。 開かれたページには様々な紋章のようなものが並べられている。 そのうちの一つ。『始祖の使い魔』という項目に描かれていたのは、康一の左手に使い魔の印として刻まれているルーンだった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2488.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「ごめんなさい。学院長は不在なんです。」 3度目になる学院長室の前でミス・ロングビルは申し訳なさそうに教えてくれた。 ルイズを授業に送り出した後、学院長を訪ねて来た康一だった。 それもそうだよなぁー。学院長っていうからには相当急がしいんだろうし。 「それじゃあ、しょうがないですね。また今度来ます。」 「待ってくださいな。」 退出しようとする康一を、ミス・ロングビルが引きとどめる。 「なにか相談したいことがあったのでは?たとえば・・・『スタンド』・・・のことですとか。」 なんでこの人が『スタンド』のことを知ってるんだァー!? 「ななな、なんでそのことを!?」 正直動揺した。やはり『スタンド』のことが広まってしまうのはまずい気がする。 「隠さなくても結構ですわ。実はこっそり聞き耳を立ててましたの。」 口を手で隠して、ごめんなさいね、と笑う。 まいったなぁ・・・。康一は頭を掻いた。こうしれっと言われると追求しようがない。 まぁオールド・オスマンの秘書なんだから悪い人ではないだろう。 「しょうがないなぁー。いや、実はぼくの故郷のことについて何か分かったことがないか聞きにきたんですよ。」 ミス・ロングビルはしばらく考えていたようだが、やがて首を横に振った。 「そのような話は伺っていませんわ。でもオールド・オスマンだけでなく、ミスタ・コルベールも文献などを漁っておられるようですから、そのうちきっと見つかりますわよ。」 「そうですか・・・」 やはり杜王町に帰るのはまだまだ先のことになりそうだ。というよりも、帰ることができるのだろうか。 康一は肩を落とした。 がっかりした様子の康一を不憫に思ったのかもしれない。 ミス・ロングビルはちょうど休憩するところだったから、と康一をお茶に誘った。 ミス・ロングビルに薦められて、康一は応接用の椅子に座った。 ここに座るのは3度目だが、そのとき向かいに座っているのはオールド・オスマンやミスタ・コルベールだった。 今はミス・ロングビルが座り、淹れたての紅茶を出してくれる。 綺麗な人である。おしとやかな物腰だが、どことなく影があって、キュルケとはまた違う意味で大人の女性という感じがする。 最近美人に縁があるなぁ。と思う。 由花子さんと知り合う前なら、多分もっと舞い上がっていただろう。 ティーカップに手を伸ばす。立ち上る湯気からは紅茶の華やかな香りがした。お茶に詳しくはないが、きっといい茶葉を使っているのだろう。 「そういえば、故郷のことを聞きにいらしたんですよね?」 「ええ・・・まぁ。」 ミス・ロングビルと目が合った。 「故郷に、帰りたいですか?」 「・・・ぼくを待ってる人がいるんです。いきなりいなくなったからきっと心配してます。」 「恋人かしら?」 冗談めかして笑うロングビルに康一は頷いた。 「まぁ、恋人もそうですね。でも、家族や友人も。」 「そう・・・。大切な場所なんですね・・・。」 ロングビルは康一を見つめた。 いや・・・。康一は思った。 彼女はぼくを通してどこか遠くを見ているような気がする。 「でもロングビルさんにも故郷があるでしょう?」 ミス・ロングビルは一瞬だけ胸を突かれたような顔をした。 「・・・・いえ。私の故郷はもうないんです。ですからあなたが少しだけうらやましいですわ。」 少しだけ寂しげに笑った。ティーカップを静かに傾ける。 故郷がない?彼女の故郷には何かがあったのだろうか。 しかし聞いていいものかも分からない。康一は黙り込んだ。 康一の困惑を察したのだろう。ミス・ロングビルは明るい声で言った。 「でも、大切な場所は今でもありますわ。いつどこで何をしていても、心はそこに置いている。そんな場所です。」 康一は心から嬉しそうに笑った。 「よかったぁ~。帰る場所がないなんて寂しすぎますもんね!」 ロングビルはふっと息を吐いて、微笑んだ。 そして、ソーサーをもつ康一の左手を見た。 「そのルーンのこと、ご存知ですか?」 康一はティーカップをテーブルに置いた。 「いえ、よくは知らないんですが。なんだか変なルーンなんです。武器を持つと光ったりして・・・」 康一は自分が経験したことを話した。武器を握ったらルーンが光りだして体が軽くなったこと。『スタンド』のパワーも上昇したこと。 「『スタンド』というのも不思議な能力ですね。魔法とは違うのですか?」 「ええ、多分。・・・まぁ、実は自分でも『スタンド』が何なのか良く分かってないんですけどね。」 超能力、としか言いようがない。こっちの『魔法』は多分系統だった研究がされているのだろうが。 「『スタンド』のことは分かりませんけど、その『ルーン』のことは少し分かりますわ。『ガンダールヴ』と読むそうです。」 ミス・ロングビルは説明した。 ガンダールヴとは、ハルケギニアに系統魔法を伝えた虚無魔法の使い手『始祖』ブリミルの使い魔の一人である。 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。 という歌が残されているという。 そして康一の左手に刻まれているのはそのガンダールヴのルーンと非常に似ているらしい。 「『始祖』ブリミルってここでは神様みたいに言われてる人ですよね。ぼくがその使い魔?」 実感がわかない。というか、自分に関係ある話とは到底思えない。 「ええ。ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ。私たちメイジの始祖。そして彼の使い魔『ガンダールヴ』は歌にあるように武器を扱うのに長けているといいますわ。その『ルーン』の効果と合致するんじゃありません?」 「じゃあ、ぼくを召喚したルイズが『虚無』の使い手ってことですか?」 「さぁ・・・さすがにそれは信じがたいのですが・・・」 ルイズは俗に言うと『落ちこぼれ』である。神聖視されている『始祖』と同列に扱うのは抵抗があるのだろう。 康一は考えたが、正直話が大きすぎてよく分からなかった。 「このことはルイズには黙ってたほうがいいですね。」 「ええ。オールド・オスマンもミス・ヴァリエールがこれを知ったら変に気負うのではないかと心配していましたわ。」 そして、「本当はコーイチさんにも言わないつもりだったみたいです。だから私が話してしまったのは内緒ですよ?」と片目を閉じた。 学院長室を退室したあと、康一は学院の廊下を歩きながら考えた。 あの話は本当のことだろうか。もしかしてからかわれたのではないだろうか。 ここ数年非日常的な生活を送ってきた康一にしても、短期間にあまりにいろいろなことが起こりすぎていた。 明日になれば、杜王町の自分の部屋で目がさめるのでは、とまで考える。 でも、このルーンが『ガンダールヴ』だったとして、なぜぼくがそんな大層なものに選ばれたんだろう。 「呼び出されたのが承太郎さんみたいな人だったら誰だって納得するんだろうけどなぁ。」 夜。 ハルケギニアの双月が照らす薄闇の世界。 学院の本塔の壁に垂直に立つ人影があった。 足の裏で外壁に張り付き、垂直のまましゃがみこむと、コツコツと壁を叩く。 「さすがは噂に名高い魔法学院。壁の厚さも並じゃないわねぇ。」 夜風になびく、長い長い髪。 彼女は、二つ名を『土くれのフーケ』。ハルケギニアにおいて、大胆不敵な犯行で名の知れた盗賊である。 しかし、警備の厚い貴族の屋敷は狙っても、盗みやすいであろう平民の家を襲うことはないので、一部平民からは『義賊』と呼ばれて密かに人気が高い。 そんな彼女が今狙っているのは、魔法学院の宝物庫に眠るという『弓と矢』である。 弓矢は魔法という強力な戦力があるハルケギニアでは大した価値はない。だが以前オスマンがぽろりと漏らした、『弓と矢』の『言い伝え』に興味を引かれたのだ。 酒場に行けば掃いて捨てるほどある、くだらない与太話の一つのように思えるその『言い伝え』。 だが、魔法王国トリステインで、『賢者』と目されるオールド・オスマンと彼の学院がそれを宝物庫にしまいこんでいることが、信憑性を裏打ちしていた。 「あのハゲ。この壁は物理衝撃には弱いだなんてよく言えたもんだ。」 フーケは計画もなしに盗みに入るような盗みはしない。事前に情報を集め、弱点を見極め、そこを一気につく。 だから今まで捕まらずにこれたのだ。 この魔法学院への盗みも、鉄壁といわれている魔法学院の宝物庫の弱点を探すため、内部に潜入してもうどれくらいになるだろうか。 ジジイに尻を触られながらもお宝のために耐えてきた。 そしてようやく、教師の一人からこの宝物庫唯一の弱点を聞き出したのだ。 だというのに、唯一の弱点のはずの物理的衝撃に対する耐久性すら、王宮の城壁並みなのだ。 自分の力を全力でぶつけても破れるかどうか・・・。 だが、錬金などといった他の手段で破るのは不可能だ。 「できるかどうか分からないとしても、やるしかないね。」 セクハラに耐えるのも我慢の限界だ。 フーケは詠唱と共に杖を振るった。 眼下の地面が集まり、盛り上がる。みるみるフーケのいる宝物庫外壁の高さまで大きくなったときには、巨人のような人型の土人形ができあがっていた。 土人形――ゴーレムの肩に飛び乗る。牛も軽く握りつぶせそうな大きさの拳を鋼鉄に錬金した。 「さぁ、伝説の『弓と矢』。この『土くれ』のフーケがいただくとしようかね!!」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2454.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 広瀬康一はネアポリスの抜けるような青空を仰いだ。 「いい天気だなぁ・・・」 今彼はイタリアでの用事をすませ(ついでの観光もすませ)ネアポリス駅行きのバスを待っている。バス停にいるのは康一だけだ。 観光名所だという町外れの教会を見てきた帰りである。 人通りが少ないのはシエスタ(イタリアではみんなそろってお昼寝をするらしい)の時間帯だからだろうか。 少々トラブルはあったが、パスポートも帰ってきたし、旅費もまだ十分ある。 康一はこれからフランスも見て回って、最後にパリのディズニーランドに寄って帰る予定だった。 そこまで考えて康一は由花子のことを思った。 「由花子さん、あんまり大騒ぎにしてないといいけど・・・」 由花子に「イタリアへ汐華初流乃という人物を探しにいってくる。」と話したところ、なぜか烈火のごとく反対されたからだ。 あまり人には話さないように、と承太郎さんから言われていたので、しつこく問い詰めてくる由花子に、康一は正直げんなりしてしまった。 結局最後には自分もついていくと言い張る由花子から逃げるようにイタリアにやってきたわけだが、あの由花子さんのことだ。今頃仗助くんたちに当り散らしていることだろう。(由花子はパスポートをもっていなかったので連れて行くわけにもいかなかったのだ。) そこでふと康一は自分の左手に何かの気配を感じて振り返った。 そこにはいつのまにか、巨大な楕円形の鏡のようなものがあった。康一がこのバス停に来たときにはこんなもの無かったように思ったのだが。 「さっきまでこんなのあったかなぁ。」 オブジェかなにかだろうか。康一は鏡に映る自分の顔を覗き込んだ。 鏡に映る自分は二年前から何も変わっていない気がする。 もうすぐ18歳になるというのに康一の身長は157cmのまま一向に伸びる気配を見せない。 仗助くん(180cm)や億泰くん(178cm)と比べてずっと身長が低いのは今更気にしていないが、恋人の由花子さん(167cm)より10cmも低いのは我ながらどうかと思う。 二人連れ立って歩いているとよく店員さんに「ご姉弟ですか?」と言われる。 映画館に行ったときなど、一度何も言わないでいるうちに小学生料金のチケットを渡されてしまった。 そうした勘違いにブチ切れる由花子さんを宥めるのはもうデートの定番になってしまっていた。 ちなみに由花子さんは逆に、高校生だといっても信じてもらえないことが多いくらい大人びているから、カップルと見てもらえないのはしかたないのかもしれない。 康一は人差し指で軽く、鏡の自分の顔が写っている部分を拭ってみようとした。もうこれでイタリアを後にするという状況で、広瀬康一は少々油断していたのだ。 だから、表面を撫でるだけだったつもりの指が一瞬のうちに手首まで飲み込まれてしまったのには心の底から驚いた。 「こ、これは・・・!?」その瞬間手首から全身へと走るように電撃のような衝撃が走った。 「が、は・・・っ!もしかして・・・これは『スタンド攻撃』!?」 康一は意識を手放すまいと気力を振り絞りながら、鏡から手首を抜こうとした。 しかし、鏡はものすごい力でずるずると康一の体を引きずり込む。 とっさに残った左腕でバス停のパイプをつかんで踏ん張るが、今にも離してしまいそうだ。 「ACT3!この鏡を攻撃しろぉぉぉ!!」 「S.H.I.T!」 康一の叫びと共に現れた人影が、鏡を殴りつける! だが、ACT3と呼ばれた人影の拳も鏡に触ることは出来ずに沈み込み、逆にずるずると鏡の中へ引きずりこまれていく。既に両腕を肩まで飲み込まれて身動きもとれない。 「ダ、ダメデス。コイツ、触レナイノニ・・・マジに(Ass Fuckin)『ヘヴィ』ナパワーデス・・・!引キ摺リ込マレマス・・・」 「く、くそっ!どうなってるんだ・・・僕にはこの鏡は壊せないッ!!『本体』を叩くしか・・・」 どこかに『本体』がいるはずだ・・・!康一はこの鏡をあやつっている『スタンド使い』を探そうと首をめぐらせたが、やはり、周りには人影一つ見られない。 「近くに本体もいない・・・!それなのにこのパワーは、遠隔自動操縦型か・・・?」 だとしたら状況は絶望的だ。一人で脱出はできそうにない、本体も見当たらない、そして何よりいつも自分を助けてくれる仲間はここにはいなかった。 せめてこいつのことを誰かに知らせなければ・・・。康一は叫んだ。 「承太郎さーん!」 だがその時既に、ACT3はもう頭部まで鏡に飲み込まれてしまっていた。それまでとは比べようもない衝撃が走り、ついに康一は抗すべくも無く意識を手放した。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/345.html
形兆は一人で教室の片付けをしていた。それも全力で。 一人なのはルイズに押し付けられたからではない、彼なりの準備だ。 こうすることである程度の『時間』を手に入れる。 その時間で食料と情報、二つの問題を解決する。 それが形兆の脱走準備だった。 そのためにはまずルイズに怪しまれてはならないのだが、 これは簡単だった。 「ご主人様の手を煩わせることも無いでしょう。私一人でやります」 そう言うだけであっさり形兆一人に任せた。 今まで反抗的な態度をとらずにいたことがここで役に立つ。 そして手を抜いて後で叱られるのもいけない。 これに関しては何も言われないことが望ましいからだ。 なるべく早く綺麗にする。そうすれば時間は多く取れる。 故に形兆は全力で掃除をしていた。 「ふう、これくらいで良いか」 形兆がそういった時には教室は元の状態に、いや元以上に綺麗になっていた。 机はミリ単位で正確に並べられ、窓ガラスもそこにあるのか分からないほど綺麗になっていた。 なんというか『キラキラ~』というようなエフェクトがかけられている様にも見える。 形兆が満足そうに笑い、振り向いた瞬間。 驚いているシエスタを見つけた。 「こ、こんにちは」 「こんにちは。それはそうといつからいたんだ?」 シエスタは驚きの表情をしたまま 「たった今です」 と答えた。そしてそのまま教室を見回し、 「これ、形兆さんがやったんですか?」 と聞いてきた。 「そうだが?」 「す、凄いですね」 その瞬間、形兆の腹が鳴った。 自分が空腹であることを思い出し、 「そういえば、どこか食事が出来るところを知らないか?」 と尋ねた。 そして厨房に案内される。 シエスタが賄い食で良ければ厨房の支配者に交渉してみる、と言ってくれたからだ。 交渉の結果、形兆は厨房のマルトー親父に気に入られ、これから先、食事の心配は無くなった。 形兆が半分ほど食べ終えたところでシエスタが席を立つ、デザートを運びにいくらしい。 「ありがとう。何か手伝えそうなことがあったら言ってくれ」 形兆は最後に礼を言う。 「いえいえ、お気になさらず」 そういってシエスタは去っていった。 形兆は食べ終え、厨房の人たちに礼を言ってから厨房を出る。 これからは情報を集めるつもりだったがその必要は無くなった。 厨房の人たちと知り合いになれたため、彼らから聞けることと、ルイズに聞けることをあわせれば良い。 そう考えたためだ。 もともと午後は調べ物をして、ルイズには道に迷ったと言い訳するつもりだったのだ。 しかしこれをするとルイズは怒るだろう。 問題は片付いたのだし、必要以上に怒らせるのは得策とはいえない。 さっさとルイズに合流して機嫌を損ねないようにしよう。 そう思いルイズがいるであろう食堂へ向かった。 だがルイズはいなかった。 もう一度ルイズを探して辺りを見回そうとした時、 「なあ、ギーシュ!お前、今は誰とつきあっているんだよ!」 「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」 金色の巻き髪にフリルのついたシャツ、薔薇をシャツのポケットに挿している男、ギーシュと言うらしい、 が周りの連中に質問されているのを見つけた。 形兆は別にルイズとすぐに合流したいわけではない(むしろ遅いほうが良い)ので、時間つぶしに眺めることにした。 ギーシュはその質問に 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 そんな風に答えた。 その時、シエスタがギーシュに近づき、何かを渡す。 「あの、落し物ですよ」 ギーシュはそれに答えない。答えたのは周りの友人たちだった。 「その香水はモンモランシーの香水じゃないか?」 「そうだ!その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のために調合している香水だぞ!」 「つまり…お前は今『モンモランシーとつきあっている』……違うか?」 「違うよ。全然違うよ」 ギーシュがそう言いったとき、茶色いマントの少女がギーシュの近くにやってきた。 「ギーシュさま……やはり……」 「全然違うよ。モンモランシーとは全く関係ないよ」 その少女は、ギーシュの頬に平手打ちを叩き込んだ。 「さようなら!」 そういって食堂を出て行った。 すると、別の女の子がやってきた。巻き髪で黒いマントを着ている。 「全く違うよ。ちょっと仲は良かったと思うよ。でもこれは二股じゃないよ」 そしてワインのビンを掴み、そのままギーシュを殴りつけた。 「うそつき!」 そういって食堂を出て行った。 ギーシュは芝居がかった動作で頭から流れてきた血を拭きながら言った。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 そしてシエスタに向かって言う。 「君が軽率に香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 シエスタは何も言えず、怯えている。 「いいかい?君が香水のビンを置いたとき、知らないふりをしたじゃないか。 話を合わせるぐらいの機転があってもいいだろう?」 「え……でも」 シエスタは目に涙を浮かべながら何か言おうとする。 「口答えするのかい?」 ―――どこかで同じような光景を見た。 どうあっても抗えないくらい力の差がある相手に一方的に殴られる子供。 昔から自分はそいつを庇っていた。 そして、気がついた時には右手を前に突き出していた。 椅子から落ちて倒れているギーシュ。 目を見開いて自分を見ているシエスタ。 何が起こったのか理解できてない周りの連中。 自分がギーシュを殴ったことに気づく。 ヤバイことをした。だが後悔は無い。 こんなゲス野郎を殴るくらいならいいだろう。そう考えながら右手を下ろした。 ギーシュが立ち上がり、こちらをにらみつける。べつに防御力は下がらない。 「君……いい度胸だね」 「……」 「貴族に手を上げるということは、即処刑されても文句は言えないのだが…」 「……」 「君はミス・ヴァリエールの使い魔だ。特別に決闘で決着を付けるということにしてあげよう」 「分かった……だが一ついいか?」 「なんだい?言ってみたまえ」 「それでこのメイドにはもう何もしないこと、それを約束して欲しい」 「分かった。いいだろう」 形兆の言っていることは『お前は八つ当たりがしたいだけだろう』ということだったが ギーシュはそれに気づくことなく 「ヴェストリの広場で待っている」 そういって去っていった。 「あの…形兆さ」 「おい」 「はい!?」 形兆に何か言う前に先に話しかけられ、シエスタは畏縮した。 「エプロンの後ろの紐、ほどけてるぞ」 そういって後ろに回りこみ、紐を結ぶ。 「え?あ、ありがとうございます」 「それじゃあな」 そういって歩き出す形兆。 去っていく背中を見ながらシエスタは (自分に兄がいたらあんな感じなのかな……) 場違いであることを知りながらも、そんなことを考えていた。 To Be Continued ↓↓
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2476.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「説明してもらうわっ!!」 山岸由花子は開口一番に叫んだ。 ここは杜王グランドホテルの一室である。 「やれやれ・・・ノックをすればこちらから開けるってのに。」 空条承太郎は般若のごとき形相で睨みつけてくる由花子を前に、溜息をついた。 山岸由花子は、制止するホテルマンたちを(文字通り)ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、『ラブ・デラックス』で部屋の鍵を無理矢理に開けて入ってきたのだ。 「用件は大体見当がつくがな。」 「当然、康一くんのことよ!」 由花子は承太郎に詰め寄った。 「イタリアにいった康一くんからの連絡が、四日前から途絶えたわ。一日一回は連絡するっていっていたのに!そして帰国予定日になっても帰ってこないの!」 「これってどういうわけかしら。康一くんは責任感のある人よ。予定を曲げてわたしに心配をかけるようなことをする人じゃない!なにかあったのよ!」 由花子は拳を握り締めた。 「もし、康一くんに何かがあったら、あんたを絶対に殺してやるわッ!」 由花子の髪がざわめく。 象でも気絶しそうな殺気のなかで、承太郎は静かに口を開いた。 「康一くんは無事だ。」 「・・・なんであんたにわかるのよっ。」 由花子が眉をひそめた。 「康一くんに何かがあったのではないかとは、俺も思っていた。こちらへの連絡も途絶えていたからな・・・。だから康一くんがどうしているか調べることにした。」 「だからどうやってよ!!」 「ジジイ――ジョセフ・ジョースター――に『ハーミット・パープル』で『念写』をさせた。ジジイは電話口で言った、『康一くんは無事だ』とな。そして・・・」 承太郎は一通の手紙を出して見せた。切手も印鑑もあて先すら書いてない手紙である。 「これがさっきSW財団の特別便で届いたばかりの、念写した写真だ。ジジイは、『写真を見ればわかる』といった。ちょうどこれから開けるところでな。」 というと、ペーパーナイフで手紙の上部を切り、写真を取り出した。 「こ・・・これは・・・!」 承太郎はその写真を見た瞬間に冷や汗を流した。 「(ま、まずいぜ・・・『これ』をこいつに見せるわけには・・・!)」 写真を見たまま固まってしまった承太郎に、由花子が痺れを切らす。 「ねぇ。何が写ってるの?わたしにも見せて!」 承太郎は沈黙したまま答えない。 ようやっと、重い口を開く。 「・・・この写真は俺が預かる。見ないほうがいい。」 由花子は目を見開いた。 「どういうこと!?まさか康一くんの身に何かあったわけ!?見せて!」 「康一くんは無事だ。安心しろ。だが、君がこの写真を見る必要は・・・」 「いいから見せろって言ってんのよこのウスラボゲッ!!!」 由花子は承太郎の手から写真をひったくった。 承太郎は早くも二度目の溜息をついた。 なるほど。康一くんは確かに無事である。 写真の康一くんは、ベッドに寝そべる、胸の大きな赤髪の美女に抱きしめられていた。 そしてその腕を、ピンクブロンドの美少女が引っ張っている。 二人とも、康一くんを渡すまいという気持ちが一目で見て取れる。 状況を見たまま一言で説明するならば、『修羅場』の写真なのだった。 承太郎は写真を見つめたまま微動だにしない由花子を置いて、部屋を出た。 廊下では、ホテルの支配人が心配そうにしながら様子を伺っていた。 「部屋の修理費用はスピードワゴン財団に請求してくれ。」 承太郎はそれだけを言った。 ふと気づいて、封筒を逆さに振った。 封筒の中には、小さなメモが入っていた。 『康一くんもやるもんじゃ!!しかしこの写真、由花子くんには見せないほうがいいのぉ。』 「ジジイ・・・。そういうことは先に言え!」 承太郎は支配人を連れてそこを離れた。 「やれやれだぜ・・・」 それが合図だったのだろうか。 300キロはある巨大なベッドが、頑丈なホテルの扉を爆音と共にぶち破った。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/840.html
カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌは考える。 妹はどうしているだろうか。 今頃は使い魔を召喚して、喜んでいるだろう。 今はそういう時期。自分の相棒となる使い魔を召喚する時期。 だが妹より年上のカトレアは未だ使い魔を召喚していない。 何故なら学校に行ってないからだ。 理由は引きこもりや、学校に行ったら負けかなと思っているのではなく、体が弱いために行けないのだ。 だから彼女は考える。学校に行っている妹の事を。 そして妹がどんな使い魔を召喚したのか想像している内に自分も使い魔を召喚したくなった。 本来はいけない事だが召喚だけして契約はしなければバレないだろう。 彼女を責める事は出来ない。彼女は自分の領地(それでも結構広いが)から出たことがないのだ。 このちょっとした好奇心と悪戯心から召喚のための魔法、サモン・サーヴァントを唱える。 使い魔が出てくるはずのゲートが開いた。何故か下に向かって。 そしてそこから現れたのは人間の男だった。それも超スピードで落ちてきた。 ぐしゃっと言う何かが潰れた様な音が鳴った。潰れたのは召喚された男らしい。 「え?え?どういうこと?」 おそらくは落ちている最中に召喚されたのだろうがカトレアにはそんな事知る由もなく、ただ混乱していた。 混乱から解けたカトレアはとりあえず治癒の魔法を男にかける。まだ息があったからだ。 そして男の傷はふさがって行く。 間に合った事に安堵したカトレアはちょっとした気の緩みから後ろに倒れこむ――が意識を取り戻した男が間一髪で支 えたので倒れなかった。 「ごめんなさい、体が弱くて…」 「そうでしたカ、どうすれば良いデスカ?」 「とりあえず…お屋敷まで運んでください」 「お屋敷?ああ、あれデスネ?」 男はカトレアを担いだままヴァリエールの屋敷に向かって歩きだした。 「そういえば…アナタお名前は?私はカトレアよ」 「トニオ・トラサルディーといいます。トニオと呼んでください」 屋敷に入り、カトレアの案内で部屋までたどり着く。 そして部屋のベッドに寝かせ、話が出来そうな状態になったのを確認してから質問を始めた。 「具合が悪いところスミマセン。ここは何処なのでショウ?ワタシはある鳥の卵をとるために崖から飛び降りたはずな のデスが」 「だから落ちてきたんですか?」 「ハイ、それでイキナリ地面が現れたのでぶつかって大怪我をしたはずなのですガ…」 「私が魔法で治したんです。怪我をしたのも私のせいですけど…」 「そうでしたカ、助けてくれてアリガトウゴザイマス」 カトレアは驚いた。自分が怪我をさせたというのにトニオは怒らなかったのだ。 「何かお礼をしたいデス。ちょっと両手を見せてくだサイ」 「え?あ、はい」 「フーム。体が弱いと言っていましたがソウトウですね」 「わかるんですか?」 「ワタシは両手をみれば肉体全てがわかりまス。ちょっと厨房をお借りしマス」 普通だったら初めて会った人間にそんな事はさせないのだが トニオは自分が召喚し、そして怪我をさせた人間だ。だから厨房を使わせるくらいなら、とカトレアは使用許可を出した。 数時間後 「出来ましタ!どうぞ召し上がってください」 料理が完成したらしい。 カトレアはちゃんと頂きますをしてから料理を食べた。 食べ終えたカトレアの体に異変が起こった。 体中にとてつもない痛みが走るのだ。 「こ…れは…?」 「落ち着いテ!痛みは一時的なものでス」 そしてトニオの解説が始まった。要約するとこれで健康になるらしい。 眉唾な話だったがカトレアは信じた。 数時間前に会ったとばかりだというのにトニオに奇妙な信頼を置いていたからだ。 そして痛みが収まり、カトレアは自分の体が健康になった事を実感した。 「すごい…これは先住魔法?」 「フム、実のところワタシにもよく分かってないのですが…多分そうでしょう」 「はあ…でもスゴイですね。こんな事ができるなんて!」 「スゴイ?…ワタシが?」 「そうですよ。こんな事他に出来る人はいませんよ。」 「……アリガトウゴザイマス」 トニオの目には涙が浮かんでいた。彼の料理は気味が悪いといわれ、認められなかったのだ。 それをカトレアは認めてくれた。それが嬉しかったのだ。 カトレアもまた泣いていた。自分のどうしようもない弱点であった原因不明の病気をトニオは治してくれたのだ。 それはつまり『普通の生活をする』という。彼女の望みを叶えた事になる。 互いに互いの最大の望みを叶えた。そんな二人が恋に落ちたのは当然だったかもしれない。 そしてトニオはヴァリエール家に料理人として雇われ、徐々にラ・ヴァリエール公爵に認められることになる。 パール・ジャムが先住魔法という事になっているため彼は普通の平民ではなく、元貴族かもしれないと言う事と 誰にも治せなかったカトレアの病気を治したと言うことからあまり話はこじれなかった。 最後にヴァリエール家で自分の子供達に囲まれながら寿命を迎えた彼の最後の一言をもってこの物語を終えようと思う。 「ここはもしかしたら異世界かもしれませン」 それは最初に気づこうよ、トニオさん。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2490.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「失敗したわ!!」 ルイズは歯噛みした。 フーケはこちらに気づいていなかった。めずらしく魔法も狙ったところで爆発した。 それなのにまるで攻撃が分かっていたかのようにゴーレムの上に逃げられてしまった! 「ね、ねぇ。いきなり攻撃してよかったの?」 康一が間の抜けたことを言う、 「何言ってるのよ!あんな怪しすぎる奴敵に決まってるじゃない!貴族の基本は見敵必殺よ!敵を見つけたんだから後は必ず殺す番ね!」 「そこはかとなく危険思想な気がするけど・・・」 しかし、放っておくわけにもいかなそうだ。 ゴーレムは自分達を無視するかのように、再び壁に拳を叩きつけた。 ついに壁に大穴が開いて、中の様子が垣間見える。 その穴にフーケが飛び込んだ。フードを被っているので顔はよく見えない。 「あそこって・・・宝物庫!?やっぱり宝物を盗むつもりだわ!コーイチ!フーケを捕まえて!!」 ルイズがその間もファイアーボールの呪文を唱えて杖を振る。 見当はずれの場所がボンボコボンボコ爆発した。 「わかったから、『スタンド』には当てないでよね!」 ACT2を出して、フーケが飛び込んだ穴に飛ばす。 フーケのいる部屋までは大体20m!十分射程圏内だ! いた!フーケは部屋の中で何かを物色しているようだ。 「そこまでだあッ!!」 『バグォオオオン!!』の尻尾文字を作り投げつける。 しかし尻尾文字が穴に飛び込もうとした瞬間、土の壁が穴をあっという間に覆い隠してしまう。 尻尾文字は土の壁に阻まれて爆音をあげる。 「そんなぁ!!」 ACT2は土の壁に張り付いたが、これを破るだけのパワーはACT2にはない。 「コーイチ!!」 ルイズの悲鳴でハッと我に返った。 土のゴーレムが足を飛ばしてルイズと康一を踏み潰そうとしている。 「うわぁぁー!!」 二人が這うようにしてそこから逃げだした。すぐ後に、小屋くらいの大きさの足の裏がズゥウウウンと地響きを立てて踏み降ろされた。 「こ、こんなのに潰されたらひとたまりもないぞッ!」 本体を叩いている場合じゃない。まずはこのゴーレムをなんとかしないと! 「こいつを止めろ!ACT3!!」 今度はACT3を出す。3FREEZEをゴーレムの足に叩きつけた。しかし・・・ 「な、なんだってぇー!?」 エコーズが重く出来るのは一度に一つである。ゴーレムへの3FREEZEの効果は、ゴーレムの足の一塊の土を重くするだけにとどまっていた。 重くなった土が剥がれ落ちるが、ゴーレムは周りの土を集めてすぐに再生してしまう。 「ぜ、全然効かないよぉーーーー!」 康一は悲鳴をあげた。 「ちょっと!なにやってんのよ!!」 ルイズが怒鳴る。 「だって、こんな土でできたゴーレムなんて、相性が悪すぎるよ!!」 ゴーレムには聴覚もないし感覚もない。だからACT1や2の攻撃も意味がない。ACT3で重くするのも意味がない。 ACT3で殴り合えというのか!このちょっとしたビルほどもある、馬鹿でかいゴーレムと!! ゴーレムの地を這うようなこぶしが襲い掛かってくる。 いや、試しに殴り合ってみようか。ひょっとして『3FREEZE』ならあの拳を止められるのではないだろうか、 ゴウッ!という風圧が迫る。ダムの放流現場に近づいたときのような、莫大な質量がもたらす圧倒的存在感! 「やっぱ無理ッ!!」 転がるようにして避ける。スタンドとの戦いの経験はあるが、こんな化け物とやったことはない。 「もうっ!!がんばりなさいよっ!!」 一方のルイズは康一よりもさらに遠くから杖を振りまくっている。ゴーレムのあちこちが爆発するが、表面の土を巻き上げるだけだ。 「どうしろっていうんだッ!!」 康一が怒鳴り返した。 フーケは宝物庫の中に入ると、まっすぐに右奥を目指した。 「弓と矢」のありかは分かっている。以前オールド・オスマンの付き添いで、宝物庫の整理をしたことがあるからだ。 大きな木箱に、鉄製の鍵がかかっている。『固定化』の呪文がかけられていたが、フーケが『錬金』であっという間に土くれにしてしまう。 「ふふっ、ようやく手に入れたわ。」 フーケは箱を開けると、中にある『弓と矢』を取り出した。 そんなに変わったものにはみえない。ただ鏃だけは凝った作りになっており、石とも金属ともいえない、不思議な輝きを放っていた。 「フーケが逃げるわ!!」 宝物庫から飛び出してきたフーケが、ゴーレムの肩口に飛び乗る。 ゴーレムはゆっくりと向きを変え、塔から離れていく。 動作そのものはスローに見えるが、縮尺が大きいので移動速度はかなりのものである。 「逃がさないぞッ!」 外に出てきたなら、ACT2で攻撃できる! しかし、追跡しようとしたところで、ゴーレムが離れ際に何かを投げてきたのが見える。 石、だろうか。 いや近づくにつれ、どんどんとでかくなる。岩・・・? 違う!これは、ゴーレムの拳についていた、巨大な鉄の塊ッ!!! ルイズに向かって落ちてくるが、ルイズは追いかけるのに夢中で気がついていない! 「ルイズ!!」 走っても間に合わない! ドゴォオオン!!! 鉄塊が地響きを立てて激突した。 あたりに土ぼこりが立ち込める。 「ごほっごほっ!・・・ルイズ!大丈夫!?」 康一はフーケを追うのを諦め、ルイズの元へと駆け寄った。 鉄塊の落下地点の更に向こう。ルイズは土まみれになって地面に転がっていた。 あの瞬間、康一はACT2の音文字『ドヒュウゥゥゥ』でルイズを吹き飛ばしていたのだ。 ルイズはしばらく地面に突っ伏したまま動かなかったが、康一の呼び声にぴくりと反応して体を起こした。 擦り傷打撲であちこちがぼろぼろである。その上頭からつま先まで土ぼこりにまみれている。ケホッっと小さく可愛い咳をした。 「危なかったね。無事でよかったよォ~!」 康一が駆け寄るとルイズはむくりと立ち上がった。 心配顔の康一の顔面に手を飛ばした。ぐーである。 「ぷげっ!!」 いきなり殴りかかってくるとは思わない康一はまともに喰らってしまった。思わず手で鼻を押さえた。鼻がツーンとして涙が出る。 「な、なにを・・・!?」 「なにをじゃないわよ!あんたのせいで逃げられたじゃない!!」 積もった埃を払おうともせず、ルイズは激昂した。 「逃げられた、って。君今危うく死ぬところだったんだよ!?」 「そうね。あんたにぶっ飛ばされて走馬灯が見えたわ。危うく天国のおじい様に連れられて川向こうのお花畑に遊びに行っちゃうところだったわ!!」 どうやら、危うく自分を押しつぶすところだった鉄塊のことは眼中にないらしい。 「ぼくは君を助けたんだぞッ!?」 「言ってる意味がわかんないわ。だいたい助けるならもっと優しく助けるべきでしょ!臨死体験させてどーすんのよ!」 そんな暇なかったよ!!と言おうと思ったが諦めた。おかんむりのご主人様は使い魔の言うことを聞く耳を持ち合わせていないらしい。 今らながら、騒ぎを聞きつけた警備員やメイジたちが集まってくるが、フーケとそのゴーレムはもういずこかに消えていた。 「せっかく、チャンスだったのに・・・」 あんたのおかげで逃げられたわ。といわんばかりに頬を膨らます。 ただでさえ幼い容貌なのに、そうするとまるで、小学生みたいだ。 思わず拭きだしてしまうと、ルイズは康一の二の腕を握りこぶしでゴンと叩いた。 「何笑ってるのよー!」 「ごめんごめん!」 土まみれで周りの目も気にせずやり合う二人に、駆けつけた大人たちは顔を見合わせた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/268.html
第08話 イタリア料理を作らせに行こう!⑥ ┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙┣゙ おかしいッ!おかし過ぎるッ!何だこの料理人はッ!?『何者』なのだッ!? コルベールは目の前の光景に頭がショートしそうであった。 自慢じゃあないが自分はこれまで沢山の人間を見てきた。だがッ!誰一人として『病気を治す』料理人など見たことがないッ! 彼は何者なのか? 彼は平民なのか? 彼はメイジなのか? 彼は本当に料理人なのか? コルベールは自問するが一向に答えは出ない。 「さっ、次の料理に行キマショウカ?」 そう考えている間にもトニオは出来上がった料理を運んでくる。 「次はプリモ・ピアット(第一主菜)デス。」 そう言ってテーブルの上に置かれたのは、 『キノコのリゾット――――!!』 『五種類の野菜のソースのペンネリガーテ――――――!!』 ●キノコのリゾット リゾットとは米と具をブイヨン(旨味とスゴ味が一杯のダシ)で煮たもの。イメージとしては粒のはっきりしたようなお粥かおじや。 材料(二人分) ・米 1カップ(200cc) ・オリーブオイル 大さじ1杯 ・ニンニク 1かけ ・椎茸 2ヶ ・シメジ 1/2パック ・マイタケ 1/2パック ・ポルチーニ(乾燥) 5g ・玉ねぎ 1/4個 ・ベーコン 3枚 ・固形スープの素 1個(本来ナラバブイヨンを作っテ欲シイデス) ・バター 大さじ1杯 ・パルミジャーノ 大さじ3杯 ・塩、コショウ 適量 ●五種類の野菜のソースのペンネリガーテ ペンネとはパスタの一種。マカロニの様に管状になっている。ペンの先に形が似ている事からペンネ(ペン先の意)の名がついた。 材料(4~5人分) ・ペンネリガーテ 160g ・オリーブオイル 適量 ・ニンニク 1かけ ・トマト 小1個 ・ニンジン 中1/4本 ・ナス 1本 ・ズッキーニ 大1/2本 ・新玉ねぎ 中1/2個 ・トマトペースト 小さじ2杯 ・パルメジャーノレジャーノ 大さじ2杯 ・塩、コショウ 適量 「おおォ~~~~またも初めて見る料理じゃのォ~~」 オスマンが感嘆の声をあげる。 「学院長サンのはリゾットと言いマシテ、私達の住んでイル所で獲レルお米と言う主食を使ったモノデス。」 「俺の方は何なんだ?」 「マルトーさんのはペンネと言うモノデス。さぁ、お二人とモ召し上がッテ下サイ」 促され、二人は料理を口に運ぶ。 ・・ ・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 「「ゥンンンンンンンまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!!!」」 この上無きが如く、まさに歓喜の雄叫びを上げる二人。 「こんなッ!こんな食材がッ!この世にあるとはッ!!うますぎブヘェアッ!」 「学院長(様)ッ!」 言葉も言い終わらぬうちにオスマンが突如盛大に血を吐くッ!言わずもがな、パール・ジャムの効果である。 「アヴァッ!ヴェベベベアバババババッ!」 全身から血を噴き出し、痙攣を起こしているオスマンは、さながら頭の逝ってしまった変態だ。くぐもった声も、もはや人類とは思えない。 ドグォッ! 瞬間ッ!彼の胸部が花開いたッ!それはまさに観音開きッ! 「うめェ――――――――――ゲバァッ!!」 同時にマルトー親父も臓物を爆発させ、危険なバイオハザード状態である。 二人の姿は、形容するならまさに『バケモノ』であったッ!! しかし次の瞬間には 「空気がうまいッ!体が軽いッ!肺の調子が良くなっておるッ!」 「下痢になったり便秘ななったりと最悪だった腹が治ったでよッ!」 見ているコルベール達も開いた口が塞がらない。いや、正確には少女の方は刺激が強すぎたのか気絶している。 「トニオ君ッ!君のような料理人ならメイジだろうと平民だろうと関係ないッ!是非とも雇わせて貰いたいッ!」 「おうよッ!お前ェみてェな奴なら一緒に仕事をしてもいいんじゃあないかと思うぜッ!」 おかしいッ!何なんだのだ!?このやってきた青年と料理人はメイジじゃあないと聞いたッ!ディテクト・マジックでも変な所は見られなかったッ! なのにこの料理は何なのだッ!? コルベールが悩みに悩み、思考が渦を巻き、虚空へと旅立っている間にも、構わず話は進んでいく。 「そこの仗助君は使い魔として不自由をかけるかもしれんが、一緒に便宜をはかる事にしよう」 「あ、ありがとうございますッ!ご迷惑をお掛けしますがッ!よろしくお願いしまッス!」 かくして、仗助とトニオのよるべが確保された瞬間であった。 そして、かなり久し振りに言葉を発した様な気がする仗助であった・・・・・ その少女はさ迷っていた。夜の闇の中を。 変な平民を召喚してしまい、その使い魔には契約前に逃げられ、今も学院を、森を、草原を探し回ったが未だに見つからない。 怒りが込み上げてくる。なんなのよ、このルイズ・フランソワーズに大ッ恥をかかせたくせにッ!変な平民のくせにッ! いくら悪態をついても見つからないものは見つからない。服は汚れ、疲れのせいか空腹も覚えてきた。 「帰ろ・・・・」 もう今日は諦め、明日に掛けよう。もし、それでもダメな時は覚悟を決めよう。再召喚なりそれとも・・・・・ ネガティブになっていく気持ちを抑え、学院へと足を向けたときであった。 「なんだろう?」 なんだか学院の方から良い匂いがする。 「いい匂い・・・・・」 疲れきった体は欲の赴くままに匂いの源へと足を運んでいくのであった・・・・・・・・ To Be Continued・・・・・・